法人版事業承継税制についての留意点

当該税制について、実務を通して感じた留意点等について記載いたします。

令和4年度改正

法人版事業承継税制の特例措置の適用にあたり、事前に特例承継計画を、令和5年3月31日までに、提出することとなっていましたが、当該期限が、令和6年3月31日までに延長となりました。

一方で、従来の適用期限(令和9年12月31日までの相続・贈与等)については、今後も延長されない見込です。

税務調査時のリスク

事業承継税制を適用して、納税猶予の適用を受けた非上場株式について、税務調査により、評価誤りが指摘され、評価額が増加すると、どうなってしまうのか。

租税特別措置法通達によれば、原則として、評価増額部分に係る税額については、納税猶予の適用はないとのことです。但し書きとして記載があるのは、株式の評価又は税額計算の誤りのみに基づいて修正申告する場合であれば、追徴税額部分が、納税猶予の対象になるということです。

つまり、株式以外の財産に修正項目があると納税猶予の対象にならないということになりますが、私が担当した調査案件では、株式以外の財産にも修正項目があったにも関わらず、株式に係る評価誤りによる追徴税額については、納税猶予の対象となりました。

これは、調査官の、さじ加減によるものなのか不明ではありますが、何が言いたいかと言えば、株式評価額を100%合わせる(調査官が見ても非違項目がない)自信がなければ、会計事務所側にとって、リスクがある制度と言えます。

後継者の将来の柔軟な経営判断を阻害するリスク

当該税制についての根幹となる前提は、企業が永続していくことです。税制を適用して、10年後・20年後、企業が存続しているかどうかは、誰にも分かりません。

相続による事業承継の場合ですが、実際に適用をした事例では、納税猶予された本税の相続税に加え、利子税(いわゆる利息のこと)が1.5倍ほどの金額でした。

当然、納税猶予の打ち切り事由(組織再編成等)に該当すれば、上記本税と利子税が税制を適用した相続人に、降りかかることとなります。

ともなれば、後継者が事業を継続するにあたり、様々な経営判断を行う際に、制約を受けることにもなりかねないでしょう。

当該税制適用にあたっては、慎重な判断が必要と思われます。