顧問契約や申告の依頼を検討している法人や個人事業主の方が、税理士事務所の説明の中で「書面添付制度」という言葉を目にすることがあります。申告書に税理士が作成した書面を添えて提出する手続ですが、どのような書面なのか、税務調査とどう関係するのか、依頼する側が何を準備すればよいのかは、言葉だけでは分かりにくいものです。
書面添付制度は、税理士法に定められた全国共通の制度です。熊本で事業を営む方が確認する内容も、国税庁ホームページの「H2-3 計算事項等を記載した書面の添付」と、国税庁ホームページの「4 書面添付・意見聴取制度」に掲載されている内容が基本になります。
この記事では、国税庁ホームページの「H2-3 計算事項等を記載した書面の添付」「4 書面添付・意見聴取制度」「H2-1 税務代理の権限の明示」に書かれている範囲に限って制度の仕組みを整理し、そのうえで、税理士と契約する前に確かめておきたい事項を、対象の申告書、契約期間の途中で税理士が変わる場合、意見聴取の流れ、帳簿書類の準備という順に並べます。
制度を使うかどうか、どのように使うかは事業の状況によって変わるため、個別の結論は税理士と一緒に決めるものとして読み進めてください。
SECTION 01
書面添付制度の手続の概要
国税庁ホームページの「H2-3 計算事項等を記載した書面の添付」では、この手続の概要を、税理士又は税理士法人が申告書を作成した場合に、その申告書の作成に関し、計算し、整理し、又は相談に応じた事項を記載した書面を申告書に添付して提出する手続と説明しています。手続の根拠は税理士法第33条の2第1項です。
同じページでは、手続の対象者は税理士又は税理士法人、提出時期は申告書を提出するとき、提出先は申告書に係る納税義務者の納税地を所轄する税務署長等とされています。提出方法は、e-Taxで申告書に添付して提出するのが基本で、書面により申告書に添付して提出することもできます。
つまり、書面を作成して提出するのは税理士の側であり、納税者が関わるのは、申告書の作成に使う帳簿や書類を提示し、相談した内容を伝える場面です。「税理士が申告書をどのように作ったかを、税務署に向けて書面で示す仕組み」と捉えると分かりやすいでしょう。
相続税・贈与税で使う様式
同じページには、様式として「申告書の作成に関する計算事項等記載書面」と「申告書の作成に関する計算事項等記載書面(資)」が掲載されており、(資)は相続税・贈与税等に対応した様式とされています。また、令和8年9月24日以降に書面で提出する場合に使用する様式も別に掲載されています。法人税や所得税の申告だけでなく、相続税の申告でも使われる制度であることが、この様式の区分から分かります。
参照先:国税庁ホームページの「H2-3 計算事項等を記載した書面の添付」
SECTION 02
制度の趣旨と調査通知前の意見聴取
国税庁ホームページの「4 書面添付・意見聴取制度」の問4-1では、制度の趣旨が説明されています。計算事項等記載書面等を申告書に添付して提出した者に対する調査において、従来の更正前の意見陳述に加え、納税者に税務調査の日時場所をあらかじめ通知するときには、その通知前に、税務代理を行う税理士又は税理士法人に対して、書面の記載事項について意見を述べる機会を与えなければならないとされています(税理士法第35条第1項)。この仕組みは、平成13年度税理士法改正により拡充されたものです。
同じ問4-1では、この制度が、申告書が税務の専門家の立場からどのように調製されたかを明らかにすることで、正確な申告書の作成及び提出に資する、税理士に与えられた権利の一つであるとも書かれています。
問4-2では、制度の効果として、書面に記載された事項が申告審理や調査の要否等の判断において積極的に活用されることや、調査通知前の意見聴取の段階で疑義が解消し、調査の必要性がないと認められた場合には、納税者の事務所等に臨場して行う帳簿書類の調査に至らないこともあり得ることが挙げられています。あわせて、書面は納税者に対する税理士の責任の範囲を国税当局に対して明確にするものでもあるとされています。
参照先:国税庁ホームページの「4 書面添付・意見聴取制度」
SECTION 03
書面を添付すれば税務調査は省略されますか
いいえ。国税庁ホームページの「4 書面添付・意見聴取制度」の問4-3では、意見聴取が行われて疑問点が解消した場合など、結果的に調査に至らないことはあり得るものの、書面については調査の省略を前提としているものではないと明記されています。
「添付してもらえば調査を受けずに済む」と受け取ってしまうと、後で期待と実際の扱いが食い違うおそれがあります。制度が定めているのは、事前に通知して帳簿書類を調査する場合に、調査通知の前に税理士が意見を述べる機会が設けられるという手順です。調査をするかどうかは、その意見聴取の結果も踏まえて国税当局が判断します。
問4-4では、意見聴取の対象とならない場合でも、書面は税務署等における申告書の審理や調査の要否の判断に積極的に活用するとされています。書面は調査を避けるための書類ではなく、申告書の作られ方を伝える資料として扱われる、と理解しておくのが実態に近い捉え方です。
参照先:国税庁ホームページの「4 書面添付・意見聴取制度」
SECTION 04
書面に記載される内容と提示する帳簿書類
国税庁ホームページの「4 書面添付・意見聴取制度」の問4-13では、書面には、申告書の作成に当たり計算し、整理し又は相談に応じた事項について、どのような帳簿や書類等を基に、どのように計算、整理等を行ったかを具体的に記載するとされています。中心となる記載内容として、次のようなものが挙げられています。
- 01
計算し、整理した主な事項について、どのような書類や帳票に基づき、どのように確認したのか
- 02
前年(度)と比較して顕著な増減が見受けられる事項について、どのような理由から増減したのか
- 03
会計処理方法に変更等があった事項について、どのような理由から、どのように変更したのか
- 04
相談に応じた事項について、どのような相談があり、どのような指導又は確認をしたのか
問4-14では、『申告書の作成に関する計算事項等記載書面』の第1面「1 提示を受けた帳簿書類に関する事項」から第3面「5 総合所見」までのいずれにも全く記載がない書面は、計算事項等記載書面等とはいえないとされています。
依頼する側が説明を求められやすい事項
この記載内容を依頼する側から読み直すと、税理士がどの帳簿書類を見たか、前年と大きく変わった数字の理由は何か、会計処理を変えた理由は何か、といった点が書面に書かれることになります。売上や経費が前年から大きく動いた年、取引先や事業の形が変わった年、会計ソフトや処理方法を切り替えた年は、その理由を税理士に説明できるよう、契約書や請求書、社内の記録を手元に残しておくと準備が進めやすくなります。
参照先:国税庁ホームページの「4 書面添付・意見聴取制度」
SECTION 05
書面を添付するかどうかは納税者が決めるのですか
いいえ。国税庁ホームページの「4 書面添付・意見聴取制度」の問4-15では、書面を添付するかどうか、またその書面にどのように記載するかは、税理士自身が判断することになると書かれています。
ただし、同じ問4-15では、税理士はあくまで納税者の求めに応じて税理士業務を行うものであり、書面の記載内容によっては納税者に影響を与えることもあるため、日頃からの信頼関係等を考慮すれば、お互いに意思疎通を図り、納税者の理解を求めておくことも必要ではないかとされています。
このため、契約前の打合せでは、「書面を添付してもらえるか」と一方的に求めるのではなく、税理士がどのような方針で添付を判断しているか、添付する場合にどのような帳簿書類の提示や説明が必要になるかを聞いておくのが自然な進め方です。添付の判断は税理士が行い、その前提となる帳簿書類と説明は依頼する側が用意する、という役割の分かれ方を最初に共有しておくと、申告の時期になってから慌てずに済みます。
参照先:国税庁ホームページの「4 書面添付・意見聴取制度」
SECTION 06
契約前に確かめたい対象の申告書と依頼の形
書面は申告書ごとに添付されるものです。国税庁ホームページの「H2-3 計算事項等を記載した書面の添付」でも、提出時期は申告書を提出するときとされています。そのため、契約の範囲を確かめる際は、どの税目のどの年分(事業年度)の申告書を依頼するのかを、書面添付の話と結び付けて整理しておく必要があります。
依頼の形にも二つの種類があります。書面は、税理士法第33条の2で、税理士が申告書を作成した場合の『申告書の作成に関する計算事項等記載書面』と、他人が作成した申告書について相談を受けて審査した場合の『申告書に関する審査事項等記載書面』に分けて定められています。国税庁ホームページの「4 書面添付・意見聴取制度」の問4-14でも、この2つの書面の名前が挙げられています。申告書の作成から任せるのか、自社で作成した申告書の審査を頼むのかによって、作成される書面の種類が変わります。
税務代理権限証書との関係
国税庁ホームページの「H2-1 税務代理の権限の明示」では、税理士又は税理士法人が税務代理をする場合に、その権限を有することを証する書面(税務代理権限証書)を税務官公署に提出する手続が案内されており、根拠は税理士法第30条とされています。調査通知前の意見聴取は、この税務代理権限証書を提出している税理士に対して行われます。申告書の作成だけでなく、税務代理まで依頼するのかどうかも、契約の範囲として確かめておきたい点です。
参照先:国税庁ホームページの「H2-3 計算事項等を記載した書面の添付」/国税庁ホームページの「4 書面添付・意見聴取制度」/国税庁ホームページの「H2-1 税務代理の権限の明示」
SECTION 07
契約期間の途中で税理士が変わる場合の意見聴取
契約の期間や終了の条件を確かめる際に、書面添付制度との関係で知っておきたいのが、国税庁ホームページの「4 書面添付・意見聴取制度」の問4-8です。税務代理権限証書の税理士と、計算事項等記載書面等の税理士とが異なる場合は、現在、税務代理権限証書を提出している税理士に対して調査通知前の意見聴取が行われるとされています。
たとえば、ある年分の申告書を前の税理士が作成して書面を添付し、その後に契約を終えて別の税理士へ依頼を移した場合、その年分について意見聴取の機会が与えられるのは、その時点で税務代理権限証書を提出している税理士です。書面を作成した税理士と、意見を述べる税理士が別の人になる可能性があるということです。
契約前の段階では、契約期間がいつからいつまでか、契約が終わった後に過去の年分について税務署から連絡があった場合にどう対応するか、引継ぎの際にどの資料を受け渡すかを確かめておくと安心です。
参照先:国税庁ホームページの「4 書面添付・意見聴取制度」
SECTION 08
意見聴取が行われる時期と進み方
国税庁ホームページの「4 書面添付・意見聴取制度」の問4-7では、意見聴取は、申告書に係る租税に関しあらかじめ日時場所を通知して帳簿書類を調査する場合に、調査通知前に実施するとされています。事前通知が行われない場合には、調査通知前の意見聴取は行われません。実施する場合は、税務署等が納税者に調査通知を行う日の1〜2週間前までに、意見聴取の日時、方法を取り決めるための連絡を行うこととされています。
問4-5では、意見聴取では税理士から積極的に意見を述べることが必要である一方、税務署等の担当者からも個別・具体的な質疑が行われることがあるとされています。問4-10では、意見聴取は税理士に対して行われるもので、納税者を同席させて行うものではないと書かれています。問4-11では、調査の必要がないと認められた場合には、原則として「意見聴取結果についてのお知らせ」という文書で、税理士に連絡するとされています。
税理士から追加の資料や説明を求められたときに応じられる連絡方法と担当者を、契約時に決めておくと対応が滞りにくくなります。
意見聴取の後に修正申告をする場合
問4-6では、意見聴取における質疑等のみに基因して修正申告書が提出されたとしても、国税通則法第65条第6項に規定する調査通知前にされた場合には、加算税が賦課されることはないとされています。ただし、平成28年の改正により、調査通知以後に修正申告書を提出した場合には加算税が賦課されることとされているため、加算税が賦課されないのは、意見聴取から調査通知までの間に提出したときに限られると説明されています。
参照先:国税庁ホームページの「4 書面添付・意見聴取制度」
SECTION 09
添付し忘れや記載の誤りに気付いたときの扱い
国税庁ホームページの「4 書面添付・意見聴取制度」には、提出の時期や訂正についての取扱いも掲載されています。
- 01
問4-16
書面は、その添付する申告書の法定申告期限内に限り、単独で提出することができる。令和6年3月以前は単独提出はできないと取り扱っていたが、令和6年4月以降に取扱いが変更された
- 02
問4-17
書面に、計算や整理等をした事項に関する書類を参考資料として添付して提出することができる。これも令和6年4月以降の取扱い
- 03
問4-18
書面に記載した事項の誤りに気付いた場合には、その内容に応じて、先に提出した書面を取り下げる又は内容を修正することはできると考えられる
申告書自体に誤りがある場合は、その内容に応じた訂正手続が必要です。修正申告をする場合には、誤りの内容等を記載した書面の添付についても税理士と確認してください。
申告期限から逆算した資料の受け渡し
単独での提出が申告書の法定申告期限内に限られることを踏まえると、書面添付を前提にした申告では、申告期限の直前に資料を渡すのではなく、税理士が帳簿書類を確認し、増減の理由を聞き取る時間を見込んで資料を受け渡す日程を組むことが大切です。決算月や確定申告の時期に合わせた資料提出の締切りを、契約時に決めておくと進めやすくなります。
参照先:国税庁ホームページの「4 書面添付・意見聴取制度」
SECTION 10
契約前に税理士と確かめたい事項の一覧
ここまでの内容を、契約前の打合せで確かめる事項として並べます。書面添付制度の取扱いは国税庁ホームページの「4 書面添付・意見聴取制度」で確認できますが、その制度をどの申告で、どのように使うかは、事務所ごと・依頼ごとに変わります。
- 01
依頼する申告書の税目と年分(事業年度)
- 02
申告書の作成を依頼するのか、自社で作成した申告書の審査を依頼するのか
- 03
税務代理まで依頼し、税務代理権限証書を提出してもらうのか
- 04
書面の添付をどのような方針で判断しているか、添付する場合に必要な帳簿書類と説明は何か
- 05
帳簿書類を渡す時期と方法、追加資料を求められたときの連絡先
- 06
意見聴取の連絡が税理士に入った場合、依頼する側へどのように共有されるか
- 07
契約期間と終了の条件、終了後に過去の年分について連絡があった場合の対応
- 08
書面の作成や意見聴取への対応を含めた報酬の考え方
報酬の考え方は事務所によって異なるため、依頼の範囲と一緒に見積りの段階で確かめてください。
参照先:国税庁ホームページの「4 書面添付・意見聴取制度」/国税庁ホームページの「H2-1 税務代理の権限の明示」
SECTION 11
書面添付を含む申告の依頼で伝えたい事業内容と帳簿の状況
書面添付制度を含めて申告を依頼するかどうかを相談する際は、税理士が書面に記載する内容を判断できるよう、事業の状況と帳簿の状態を具体的に伝えることが出発点になります。初回の打合せでは、次のような情報があると話が進めやすくなります。
- 01
法人か個人事業主か、事業の内容と決算期(個人事業主の場合は暦年)
- 02
直近の申告書と決算書の控え
- 03
帳簿の付け方(会計ソフトの種類、手書き、外部への記帳依頼など)と、請求書・領収書の保管方法
- 04
前年と比べて売上や経費が大きく変わった項目と、その理由として思い当たること
- 05
会計処理の方法を変えた点や、新しく始めた取引
- 06
現在ほかの税理士に依頼しているかどうか、依頼している場合の契約の終了予定
すべてがそろっていなくても相談はできます。分からない点は分からないこととして伝え、どの資料をいつまでに用意するかを税理士と一緒に決めていく形で構いません。ご連絡の際は、宮伸一税理士事務所の問い合わせページからお願いします。
参照先:宮伸一税理士事務所ホームページの「法人・個人事業主様向け 顧問業務・決算申告」
SECTION 12
まとめ:申告書がどう作られたかを契約前に共有する
書面添付制度は、税理士が申告書の作成に関して計算し、整理し、又は相談に応じた事項を書面に記載し、申告書に添えて提出する手続です。書面が添付された申告書について、事前に通知して帳簿書類を調査する場合には、調査通知の前に税理士へ意見を述べる機会が与えられます。ただし、調査の省略を前提とした制度ではなく、添付するかどうかは税理士自身が判断します。
契約前に確かめたいのは、対象の申告書、作成か審査か、税務代理権限証書の提出、帳簿書類の受け渡し、契約期間の途中で税理士が変わった場合の扱いです。自社の帳簿書類をどこまでそろえ、増減の理由をどう説明できるかを税理士と話し合うことが、制度を生かす前提になります。
宮伸一税理士事務所の顧問・決算申告のご相談について
宮伸一税理士事務所では、熊本県内の法人・個人事業主の方を対象に、顧問業務、決算申告、確定申告、年末調整のご相談をお受けしており、所長税理士が直接担当します。書面添付制度の取扱いを含め、どの申告でどのように対応できるかは、申告書や帳簿の状況を拝見したうえでご案内します。顧問契約の内容や依頼の範囲を検討されている方は、顧問業務のページで事務所の対応をご確認ください。
参照先:宮伸一税理士事務所ホームページの「法人・個人事業主様向け 顧問業務・決算申告」
FAQ
よくある質問
書面添付制度の書面は、納税者が自分で作成するものですか
いいえ。国税庁ホームページの「H2-3 計算事項等を記載した書面の添付」では、手続の対象者は税理士又は税理士法人とされています。納税者は、税理士が申告書を作成するための帳簿書類の提示や説明を行います。
書面が添付されていれば、意見聴取は必ず行われますか
いいえ。国税庁ホームページの「4 書面添付・意見聴取制度」の問4-7では、意見聴取はあらかじめ日時場所を通知して帳簿書類を調査する場合に調査通知前に実施するもので、事前通知が行われない場合には行われないとされています。
意見聴取に納税者も同席できますか
いいえ。国税庁ホームページの「4 書面添付・意見聴取制度」の問4-10では、調査通知前の意見聴取は税理士に対して行われるもので、納税者を同席させて行うものではないとされています。
運営者
宮伸一税理士事務所